愉快な精神病家族

双極性障害&アルコール依存症になりかけ!?のオジサン&パニック障害の奥様&経済力無しのアラサー&怖がり犬のドタバタ生活

ビールでキレる

この頃、タコ氏はよくキレる。夕飯の時に、ビールを飲むようになってからだ。
タコ氏という人物は、もともと、ビールが好きだった。ビールと昼寝。好きなものっていえば、この二つくらいで、
「好きなものがなくて、何が悪い」というのが、彼のモットー。
ビールを飲んで、昼寝ができれば、それでいい……みたいな(なんて、不健康!)

 

そのタコ氏が、ずっとビールを飲んでいなかったのは、双極性障害をわずらってから。
双極性障害の薬を飲んでいる時には、基本、アルコールは禁止なのだ。

ってわけで、
「薬を飲んでるんだから、ビールはダメよ」
と、ポンに何度も何度も言われて、仕方なく、ミカンや、八朔、ナツミカン、ポンカンなどなど。ミカン類を食べまくることで、まぎらわせていたのだが。
(なぜ、ビールがダメな時に、ミカン類に手がのびるのか、それはナゾ)

 

 しかし、そのタコ氏が、この間、
「お話がありまして」と、改まり。
「もうすぐ、私も定年です。で、もういいんじゃないかって思いまして」と言いだしたのだ。
「望みはわずかなものです。たまーに、ビールを飲んで、刺身を食いたい。もう、そろそろ、いいでしょう」
 ビールはともかく、刺身を禁止した覚えは、誰にもなかったのだけど。
「いいですか?」と、許可を求めてくるので、
「たまにだったらいいんじゃないの」と、ポンと、私は、許可を出してあげた。
「だけど、病院の先生に、ビール飲んでいいかって聞かなくちゃダメじゃないの?」
 ポンがそう言って、チラリと横目で、タコ氏を見ると、
「もう聞いた」と、バカに手回しが早かった。
「そんなに飲みたいなら、しょうがないでしょうって言われた。先生にも、ちゃんと許可をとった。だから大丈夫だ。問題ない」
 問題ないっていうところを、ヤケに強調したがる。でもまあ、病院の先生がいいっていったんだから、まあいいかって、私とポン、その時は、そこまで気にもとめていなかった。

 

 

と・こ・ろ・が!
 ヤツは、たまにどころか、毎晩ビールを買って飲むのだ。そして、
「たまにじゃなかったの」と、ポンが言うと、
「文句あるかよ」

と、キレ気味に、ポンをにらむ。
「だって、たまにっていったから、いいっていったのよ」と、ポンが言うと、
「じゃあ、訂正。毎晩飲みたい」
 グイを頭をそらして、ポンをにらむ。挑戦的。何で怒ってるのか知らないけど、もう、何だか怒ってる。
「毎晩750㎖を2本。ホントは、3本って言いたいところだけど。いや、4本かな」
 ヤケに、本数を増やしてくる。調子に乗ってるんじゃないか。オイオイ。
「まあ、だけど、2本でゆずる」

 妙にエラそう。3本、4本よりいいだろうっていう雰囲気。商店街の値段交渉かよっていう感じ。
「どーーーってことないって。これくらい。アル中になる量でもないし。まあ、アル中になったところで、何が悪いって話だけどねー」
「いや、アル中にはなるな!」
 私とポン、声をそろえた。
 とんでもないよ。アル中とか。そういうの、やめてよね。
「別になるつもりないって。アル中になる量じゃないよって言ってんの!」
 ポン、表情がかたい。全然、賛成する気になれないっていう感じで、押し黙り。
「ペナルティもつけていいから。酒飲んで、ヘンになったら、一週間禁酒とか。そういうの、していいから! いいだろ!」
 もう半分、脅迫モード。それでも、ポンがなかなかゆずらず、交渉はモメにモメ、大声で長い間話し合った挙句、タコ氏が希望を通した。
 毎晩、750㎖を2本。

 

 次の夜。タコ氏は、750㎖を2本買ってきて、夕飯時に、グイグイ飲んだ。
そして、後片付けの時。
「ねえ」と、ポンをにらんで、キレだした。「何か文句あんの」
「何も文句言ってないじゃない!」
「でも、顔に全部、書いてある! ビール飲んでたら、あきらかに機嫌悪いもん。昨日、規定決めたのに。750㎖を2本って。ちゃんとそう、決めたじゃん!」
「だから、文句は言ってないじゃないの!」
「だーかーら! 文句は言ってないけど、あなたの顔に、文句が書いてあんのがイヤだって言ってんの」
「だけど、顔はどうしようもない! じゃあ、なに。あんた、私に、ニコニコしてろっての。ムリよ! 私は基本、あなたがお酒飲むの嫌なんだから!  それに、私は思ってもいない顔をするのはムリな人なんだから! 何でも顔に出るタイプなの!」

 ポンは、グッと目を見開いて、タコ氏のことをにらみ返す。

すると、タコ氏は、

「ほら、みろ!」と、さけんだ。

「やっぱり、私がビール飲むの嫌なんじゃないか! 何で、そんなに嫌がるんだって言ってんだよ! それが嫌なら、もう、おしまいにしようよって話なんだよね。お互い、不幸だもん」
「何の話よ!?」
「共同生活、おしまいにしようよっていう話!」
 話が、突然、大きくなる。
「私がしたいことをあなたがいちいち反対するなら、もう、やってられないよね。別れよう。今すぐ! どう? 決めてよ、別れるか、別れないか!」
 タコ氏は、ポンに迫りよった。しかし、早い。離婚話に持っていくのが、超早い。
「財産は、きっちり半分に分けてあげるよ。あとは、自分達でがんばってねーっていう話」
 タコ氏、もう財産分与の話までしてるけど、それ、早くないですか。
「私はね、あなたのしたいことをいちいち反対していない!」

 ポンは、怒って、タコ氏に言った。

「あなたが楽しいなら、ビール飲むのも、たまにはしょうがないかなって思ってた! だけど、毎晩は多すぎるし、健康が心配。私はね、複雑なの! わかってよ、この複雑な気持ち! それが、全部顔に出るのは、しょうがない!!!」
 フーンみたいな感じで、ポンは、洗面所に走っていく。
 タコ氏は怒った顔で、ナツミカンをバクバク食らい、

「おやすみっ!!」と、怒鳴って和室に行った。

 

 やれやれ。二晩続けて、どーなってんの。平和な夜、過ごさせてよ。