愉快な精神病家族

双極性障害&アルコール依存症になりかけ!?のオジサン&パニック障害の奥様&経済力無しのアラサー&怖がり犬のドタバタ生活

天才コックさんが欲しい

 ポンは、朝からプンプン機嫌が悪い。昨夜、オムレツを作っていたら、タコ氏から電話がかかってきて、
「今、頼まれた買い物してから帰るところなんですが。130円のカツオのタタキを買っていいでしょうか」と言ってきたのである。
「いいけど、オムレツはどうするの?」と、ポンが聞くと、
「ウーン。そんなに大きくはないから……まあ、オムレツがなくても、死にやしませんが…ちょっとだけは欲しい…」みたいに、歯切れ悪くタコ氏は言った。「半分とか…」
「残りの半分はどうするの? もう作ったけど?」と、ポンが聞いたら、
「あなた達が、お昼に食べたらいいんじゃないの」と、タコ氏は言った。
 それで、機嫌が悪いのだ。
「何で、わたしが、あの人の残り物の処理をしなきゃいけないわけ!?」
と、プンプン怒って、大変だ。
「いらないなら、もっと最初から言っておけっつーの! そしたら、ひき肉だってもっと少なくてよかったし、卵だって使わなかったし、ムダ使いせずにすんだのに! もったいないじゃん!! ひき肉代と、卵代がさあ!」と怒鳴った。
「もういいよ。うちらが、お昼に食べたらいいじゃん」と、私がげんなり言ったら、
「私はねえ、あのオムレツを食べなきゃいけないって思ったら、目が覚めた瞬間から、気持ちが悪くて、胃が重たくて、口内炎までできちゃったの」と、ポンは機嫌が悪い。「こう暑いのに、胃にもたれるようなオムレツを、昼から食べられないのよ! 大体、失礼じゃない? こっちが、ちゃんとオムレツを用意してるっていうのに、わざわざ、カツオのたたきを買ってくるとか! バカにしてるわ!!!!」

 朝ごはんを食べながら、ポンの激しい文句を聞いて、私は、げんなりしてしまった。
 ポンの気持ちは、そりゃわかりますさ。タコ氏本人に言えないんだから、誰かに文句、言いたいでしょうねえ。一番気軽に文句言えるのは、そりゃ、私ですわねえ。でも、私もねえ、タコ氏を毎日やりすごしてるんだから、その上、タコ氏に対する文句まで、ハイハイって聞いてあげられる心の余裕ないんですわ。

 …とは言っても、所詮は、居候のアラサーなんで、本当は、ポンの文句くらい、いくらでも聞いてあげなきゃいけないんでしょうが。 
 ああ、貧乏ってツライ。これが、金持ちだったら、
「どいつもこいつも、大人しくしやがれ!!!」って怒鳴ってさ。

タコ氏には、
「オムレツ半分残すなら、責任もって、翌朝、自分が食べやがれ! 作ってもらった感謝ってもんがあるだろう。この野郎!!」って、タコ氏を叱りつけて。
ポンには
「オムレツごときで、グズグズ言うな! もう、タコ氏に夕食作らなくていい! コックを雇うことにするから!!」って言ってさ。

 それで、腕のいいコックを雇うの。すごく愛想がよくて、ニコニコしてて、作る食事がバツグンにうまくて、さすがの文句屋のタコ氏も、文句がつけようがないような食事を作って、それがあんまりおいしいもんだから、タコ氏もビールを飲む気がなくなっちゃうくらいになって。その素晴らしいコックさんの食事を中心に、久しぶりに、わが家に平和な空気が広がる…みたいな。

 そんなコックさんを雇うんだけど。

 でも残念ながら、コックさんどころか、自分が普通に暮らせるお金さえないし。

自分が、そんなコックになれればいいけど、コックどころか、料理は致命的にヘタクソだし。私が作ったものを見たら、ポンも、タコ氏も、ニコニコどころか、そろって嫌な顔をするようなものしか作れないし。あの文句屋の二人を満足させられるような料理修行をするために、師匠につく気力もない。

 ああ、残念。