顔色をうかがって生きるって
今日は雨が降っているっていうのに、タコ氏は、朝っぱらから庭にくり出して、さかんに、ガタガタやっている。わが家の庭には、アンティークレンガと小石の道がウネウネとついているのだけど、その道に生えている草を抜くために、道の砂利と土を掘り返し、ふるいにかけ、何だか、よくわからないが、その小道に存在する根っこという根っこを徹底的に取り除いているらしいのである。この間から、何だかそのモードに入ってしまい、
「もうしなくていいよ。そんな面倒くさいこと」といくら言っても聞かない。
だけど、何も雨がザアザア降ってる中でやらなくてもいいでしょうに。それとも、何。雨が降ってる中で、庭仕事をするのってけっこう普通のことなのかなあ。けっこう激しい雨が降ってる中で、庭の小石をふるいにかけている人って……何か怪しくない?
そういうことを、本人に面と向かって言ってみたいような気がするけど、絶対言わない。キレるに決まっているから。私、タコ氏がこう言ったらキレるだろうなあとか、ああ言ったらキレるだろうなあとか、そういうことをものすごく気にしてる。タコ氏の顔色をうかがいながら、暮らしている感じが、そろそろ息苦しくなってきた。だって、タコ氏って、昔は、そんなにキレる人じゃなかったんだもん。だから、そういうのに慣れていないんだもん。誰かの顔色をうかがいながら暮らしたことなんて、私、今までに一度もなかったんだもん。タコ氏が家にいる時は、いつだって、タコ氏が気に入るようなことを言ったり、行動したりしなきゃいけないのって、疲れる。自分を押し殺している感じ。自由がない感じ。タコ氏にばかり合わせてるうちに、自分ってものがわからなくなってくる。
……って、うちはまだマシな方だと思うけどね。大体、私はもう、アラサーなんだから、タコ氏が息苦しくてたまらないなら、サッサと家を出て言って、自分の家を持てばいいだけの話なんだし。
(最も、私が家を出るっていったら、ポンは荒れると思う。ポンは、タコ氏と二人きりになるのを異常に恐れている。Cちゃんの散歩でさえ、タコ氏と二人で行くのはイヤだっていう。ぜったい、まこも来いって言ってきかない。そして、タコ氏と歩かなきゃいけない時は、思いきり離れてる。だから、私が家を出ていくって言ったら、ポンも一緒についてくるっていうだろうし、イヌのCちゃんも連れていくことになるであろう。だから、一連隊で出ていくことにはなって、大騒ぎにはなると思うが)
それにしても、私は、自立が絶対不可能ってわけじゃない。
でも、もしも、これがティーンエイジャーの時だったら?
ちょっとそんなことを思ったりもする。
世の中には虐待されている子どもがたくさんいる。子どもたちは、どんなに家から出ていきたくても、一人では家から出られない。なのに、家で絶えず怒鳴られ、蹴られ、殴られている子どもがたくさんいる。それこそ、顔色をうかがって暮らすどころの話じゃないだろう。たえず、生きた心地もせずに、ビクビクしてなきゃいけないんだろう。ああ、それって、どんなに悲惨なことだろう。
そんな子供達が、まだまだ世の中にたくさんいるって思ったら、たまらない。私は、ここでのほほんとしていていいのかって、そんなことを思ってしまう。
でも、何ができるだろう。曲りなりにも物書きだったら、ささやかな自分の体験から、何かを導き出して、何かを……形にしなきゃいけないような。全力をかけて、何かを形にしなきゃいけないような。
そんな気がするんだけど。