愉快な精神病家族

双極性障害&アルコール依存症になりかけ!?のオジサン&パニック障害の奥様&経済力無しのアラサー&怖がり犬のドタバタ生活

つむじ風のように逃げる


「つむじ風のように逃げる」

 今日は、タコ氏の帰りが遅い。
「夕飯はいりません」ってメールが来る時。それはもちろん、会社の人と飲んで帰ってくる日っていうわけで。
「あの人が飲んだ時には、口をきいちゃいけませんよ」って、心療内科のY先生に言われてるもんだから、そんな夜には、口をきいちゃいけない。
 だけど、顔を突き合わせて、
「ただいま」とか、
「明日ねえ」とか、普通に話しかけてくる人を無視すんのって大変なものなのだ。
 ってわけで、私とポンは、タコ氏が「夕飯はいりません」ってメールしてくる日には、戦々恐々として、Cちゃんの散歩を急ぎ、夕飯を急ぎ、お風呂を急いで、つむじ風のように、2階のめいめいの寝室に引き上げることにしているのだ。
 これが大変。寝室に引き上げる瞬間まで、いつ帰ってくるか、ヒヤヒヤしてなきゃいけないし!
 一回、お風呂に入っている最中に帰ってきたことがあって。その時はもう、風呂場から出て、顔を突き合わせるのは嫌だけど、風呂場の中にとどまってたら、いい加減暑すぎて、すっかりのぼせて目が回ってしまった…。
 まあ、そんなこともあった。それくらい、タコ氏が帰ってくる日は戦々恐々と、寝室に引き上げるまでドキドキしてるので、このブログの書き込みも、もうこれで終わりにして、サッサと、風呂場に飛び込むことにしよう。

隠すならしっかりと隠してくれい!

 昨日、今日、明日の午後まで、タコ氏は東京に行って、うちにいない。それで、私とポン、もろ手をあげて喜んだ。のびのび、暮らした。やっぱ、日ごろ、タコ氏に気を使って、キンチョーしてるんだなってことが、よくわかる。
 まあ、キンチョーがぬけて、リラックスしすぎて、ダラけすぎちゃうところはあるけどね。でも、たまにはいいさ。リラックスも、人間、必要さ。緊張とリラックスは、交互にバランスよくあるのがいいのだ。ヨガの先生か誰かが、そう言ってた。
 それはとにかく、リラックス状態だった私達の平和をぶち壊したもの。それは、
① 今日、タコ氏のゴミ箱で、たまたまポンが見つけちゃったレシート。クシャクシャに丸められていたけど、広げてみると、どれもこれも、ビールを買ったレシート。休日なんて、午前中から飲んじゃってる。ゲー。
② 今日の昼、タコ氏からメール。今から新幹線にのって、東京から帰るって! ゲー。何それ~! 今夜は、まだタコ氏、帰ってこないと思ったのにー!!!

 

「帰るのは明日だと思ってたから、二人分しか用意してませんよ! ええ、そんなの用意するもんですか! なーにが、今から帰るよ! フーン!」と、ポン、謎の逆ギレ。
「私、このメールに返事しない。夕食も用意してやんない。完全に無視してやる」

とかって、ブッソウなこと言ってるから、

「明日だと思ってたから二人分しか用意してないよってくらいは、メールしておいた方がいいんじゃないの」って、私、助言してやった。

「何で、そんなこと言わなきゃいけないのよーーーーー!!!!」
 ポンは、イノシシのように荒い息を吐いたけれども、やがて怒ったように、スマホを取り上げて、すごい勢いでメールをした。のぞいいたら、

「帰るのは明日だと思ってたから、夕食、二人分しか用意していないわ。どうしよう」 と、メールの文面は、案外、穏やかなものであった。

 タコ氏のいないところでは、すっごいブッソウなことを言ったりしてるポンだけど、

タコ氏と面と向かっては、静かに、大人しくするんですね。タコ氏を怒らせるのは、怖いんですね、やっぱり。

 

 ってわけで、夕方、タコ氏は帰ってきて、ビールくさいにおいを、私の顔に吹きかけた! ゲーッ! 新幹線で、かなり飲んだな。丸わかりだぞ。あのねえ、あなた、自分がビール飲んでるってこと、私達に隠しているんでしょ。だったらねえ、もっと真剣に隠してみろっていうんだよ! 家のゴミ箱に、ビールのレシート丸めて置いたり、口から、ビールの匂いをプンプンさせたりするなって話なんだよ! こっちはねえ、あんたが、病院の先生に、アルコールに気をつけなさいってさんざん言われてるのにもかかわらず、それを無視して、ガンガン、ビール飲んでることなんて、全然知りたくないんだよー!!!!!

 こういう時の対応、ホントに悩む。

 心療内科のY先生は、タコ氏が酔っぱらってる時には無視。しらふの時には、普通に接するようにって言ったけどさ。じゃあ、

「あなた、ビールくさいよ。お酒、飲んだね? あなたがお酒飲んだら、無視しなさいって、Y先生に言われたから、無視するね」って言って、無視するの?

 そんなことしたら、家が壊れるほど、ブチギレそう。

 

 じゃあ、普通に接しておくの? ビールくさい口の人と?

 

 それとも、できるだけ、さりげなーく離れておくの? まあ、それがいいのかな。さりげなーく離れる。ああ、それがいいのかもなって、ため息と共に、そう思う。

にらみ殺し合う

 タコ氏、フキゲンだったり、そうでもなかったり、一日の中で非常に気分にムラがある。そうでもない時には話しかけたら、普通に返事をするけれど、機嫌の悪い時には、話しかけても、ホント、何も言わない。

 これは、双極性障害のせいか? アルコール依存症のせいか? もはや、私には、わからなーい!!!!

 

 機嫌が悪い時には、何を言ったって怒るけど、確実に、絶対、機嫌が悪くなるのは、自分が注意された時。
 例えば、今日なんかは、何と! 車で図書館に行ったのに、免許証を忘れていった!
「免許証忘れてるよ」と言おうと思って、いくら電話してもつながらない。
 メールをしても、返事もない。
 無免許で運転してるのかよ! 法律違反じゃないですか。ダメじゃないですか。

 帰ってきたタコ氏に、ポン、すぐさま注意した。そしたら! ヤツは、何も言わなかった。ムッツリと恐ろしい顔をして、黙り込んだ。そして、だんまりを決め込んで、怖い顔をしたまま、スマホを持って、リビングのソファに座りこみ、何も言わずに、スマホをにらんだのである!
 だけど、その態度、どうなんですか。おかしいでしょ。無免許運転はホントにいけないんだから、免許証を忘れたことを注意されて黙り込むなんて、おかしすぎるでしょ。 普通に、今度から、絶対に気をつけるっていうべきでしょ! 

 ヤツに、そう言ってやりたいけど、言わない。私もポンも、二人とも言えない。だって、タコ氏が怖いから。逆ギレされるのが怖いから。

 

 ポンは、タコ氏に言いたいことを言えなくて、ストレスをフツフツとためている。で、その結果、タコ氏の存在自体が、イヤになりはじめている。

 昨日なんかは、タコ氏が、
「今日は、鶏のカチャトーラが食べたい」
と言っただけで、ポンは、相手をにらみ殺せそうな目つきで、タコ氏をにらんだ。

 何で、あんなににらんだのかって、後で聞いてみたら

 

・鶏のカチャトーラなんて、暑苦しいものを作るのは誰か?
・タコ氏が作るとしても、後で味を直さなきゃいけないのが、すごく大変だから嫌だ
・しかも、その味直しを、タコ氏が気を悪くしないように、タコ氏にバレないように、こっそりと行わないといけないのがイヤだ。
・そもそも、この暑い日に、鶏のカチャトーラを食べたくない。
・鶏のカチャトーラを食べたいだなんて、生意気だ。

 ……みたいなことを思って、タコ氏をにらみつけたらしい。

 

 しかし、タコ氏は、ポンににらまれると、負けずに恐ろしい顔をして、
「鶏のカチャトーラとパンが食べたい」と宣言して、ポンを挑戦的に、にらみつけた。 

 ヒエ~! 鶏のカチャトーラのことで、こんなに睨み合う夫婦、はじめてみた。

 

 結局は、ポンがゆずった。夕食のメニュ―は、鶏のカチャトーラに決まった。

 しかし、タコ氏がいなくなるやいなや、ポンは、キレながら、
「私は、あの人の食べたいものをホイホイうなずいて、いいですよって言っておかなくちゃいけないのよね。それで、あの人の作ったものを手直しして、後始末して、あの人が中途半端に使った食材を、頭使って、私が使い切らないといけないのよね。あの人のしりぬぐいを、いつだって、私がしなきゃいけないのよね。そういうのが、すごいストレス!!!!」って、頭をのけぞらせて、わめきちらした。

 

 私、もうすみませんとしか言えなかった。私が、もっと早く、お料理上手になっておくべきだったんだけど。タコ氏の食べたいものをホイホイ作れたらよかったんだけど!

 でも……

 もし、私が、ヘタックソに作ったものをテーブルに並べたら、ポンと、タコ氏の二人ともに、にらみ殺されそうだな。

 

 

熱中症でくたばるポンとタコ氏の悪口と。

 暑くて、今日はポンが死にかけた。頭がモウレツ痛いって言って、グッタリと横たわったきり動けず、頭を触ったら、ヤケドしそうなくらい熱いコレって……熱中症ってヤツじゃありませんか! 危なく、Cちゃんの散歩にも行けないところだったが、18時30分ごろには、どうにか少し復活して、Cちゃんの散歩には、ヨロヨロ出かけた。でも、顔色悪くて、幽霊みたいだった。あと一歩で、バカにならないような熱中症になっていたんじゃないかって思うと、コワイ。水分をこまめに取るだけじゃダメで、塩分を含んだ水分を取らなきゃいけないそうなので、今日からは、手づくりポカリを作って、常備しておくことにする。
 タコ氏にその話をしたら、恐ろしいくらい無関心で、
「だって、この部屋、クーラーついてるんじゃないの?」とだけ言った。
「でも、ポンは基本、ク-ラーが苦手だから、ガンガン冷やしはしてないし! だから、ポンは、頭がものすごく痛くなってさ。ヤバかったんだよ」
私はそう言ってやったんだけど、タコ氏は、その話に関しちゃ何の反応も示さず、ちょうど流れていたテレビの話をした! ちょっと冷たすぎる反応だって思うのは、私だけか? 普通は、そんな話を聞いたら、
「クーラー苦手っていっても、もうちょっと、冷やした方がいいかもよ。熱中症ってバカにならないし」くらいのことを言うもんじゃないか?
 自分の奥さんの体調が、心配ではないのか? 自分の奥さんの体調よりも、テレビの方が大事なのか!

 

 そのくせ、ムキになるところは、ちゃっかりムキになって、アメリカのトランプ大統領の悪口を永遠と言い続け、
「基本、あいつらは、東洋人を人間って思ってないからね! 西洋人のやつらはさ!」
などと、偏見すぎる言葉を吐いてのけた。
 西洋人の皆さんのことを、「あいつら」って一派ひとからげにするのって、すっごく雑だと思うけど。それって、逆の意味で偏見のような気がするけど。西洋人の方々も、人それぞれ、いろんな考え方を持っていらっしゃると思うけど。東洋人のことを、人間って思っている方、たくさんいらっしゃると思うけど。そう思うんですけれど。

 ……って、暑いから、私もイライラしてて、またまた、タコ氏の悪口しか書いてないな。

 

人の意見聞いてんの?

 タコ氏、今日は、妙に不機嫌。暗い。口数少ない。機嫌が悪い。
 モモを食べている果物の爽やかな席で突然、
「クジラとイルカ。捕獲したらかわいそうだから、捕獲禁止という人々がいます。何故なら、クジラやイルカはカワイイから!」と、キレながら言いだす。
「あなたは、その意見に、YESですか! NOですか!」
 私達、いっせいに、ため息が出る。少なくとも、私はこの問いを5回以上は出されて、すでに、5回とも答えてきた。命に区別はないって。私は言った。クジラも、イルカも、イヌも、虫も、ネコも、牛も、鳥も、シカも、命に区別ってないんだと思う。どれを捕獲したらいけなくて、どれを捕獲していいなんて、そんなことし本当は言えることじゃないんだと思う。

 でも、知らないうちに私は区別をつけちゃってる。だって、魚とか牛肉はおいしい、おいしいっていくらでも食べるのに、イヌの肉とか、ヒトの肉とか恐ろしくて絶対食べられないと思うし。

 ネコとか、イヌとか、ヒトが叩き殺されているところを目撃したら、その残虐さに気絶しそうになっちゃうと思うけど、蚊が飛んで来たら、平気で叩き殺してるし。

 命の重さはどれも一緒のはずなのに、全然、平等に取り扱ってない。理不尽だと思う けど、もう自然にそうなっちゃってる……。

 それってよくないことだとは思うけど……でもさ、理不尽なことって、数えきれないくらい、この地球上にあふれているんじゃないのかな。私達なんかが思いもおよばないところにも、理不尽なことってたくさんあって。そういう理不尽な世界をかきわけて、生きていくしかないんじゃないのかな。

 いつも平等に、正しく、清く、公平にできる人なんてきっといない。誰だって、間違ったり、理不尽なことをしたり、自分の正義を押し付けたり。みんな、そうやって生きているんじゃないのかな。 

 だから、つまり、クジラやイルカだけ、カワイイから保護するなんて間違っているかもしれないけど、でも……そういう気持ちになる人がいるのも、仕方ないことなんじゃないのかな……。

 

 みたいな類のことを、私は少なくとも、5回はマジメに答えた。あんなに何度も、マジメにちゃんと答えたのに、また同じ答えを最初から言わなきゃいけないのかよ。私の答え、聞いていなかったのかよ。人の意見、聞いていないくらいなら、なぜ、またキレながら、この質問をするのだ、なぜ!?

 

 今答えても、またどうせ、その答えをタコ氏は忘れてしまうんだろうと思ったら、真剣に答えるのがバカバカしくなって、私、質問を適当にはぐらかして、話題を変えてしまった。

 そしたら、タコ氏はものすごく不機嫌になって、黙って、和室に引っ込んだ。オヤオヤオヤ!!

 

 

ポンの怒りと掃除機事件

 朝から、ポンはタコ氏のサンダルのことで怒っている。
 本人がいるところで怒っているのではない。タコ氏が会社に行ったのち、私とCちゃんしかいないところで怒っているのだ。で、何を怒っているのかっていうと、タコ氏が昨日、買ったサンダルが、とんでもなくヘンテコリンだっていうことを、モウレツ怒っているのだ。
「そりゃ、古いサンダルがあんまり汚いから、新しく買ってって言ったわよ‼ でも、だからって、何だって、こんなヘンなもんをわざわざ買ってくるんだろう! 頭おかしいんじゃないの。こんなトイレスリッパみたいなヤツ!」
 ポンは、ナイキのマークがでっかくくっついたゴムのつっかけみたいなヤツをにらんで、怒鳴り散らした。
「こんなものはいて、Cちゃんの散歩に来ないでほしいんだけど! どこも出歩かないでほしいんだけど! いいわ。言うわ。わたし、タコ氏に文句言ってやる!」と、ポンは、えらい勢いだ。
 でも、古いサンダルをはいて出歩くのもダメで、新しいつっかけをはいて出歩くのもダメだったら、いったい、なにをはいて、タコ氏に出歩けというのだろう。
「今度の休みの時に、私がタコ氏と買いに行きますよ」
 ものすごい犠牲的な顔をして、そんなことを言ったけどさ。でも、サンダル買いなおしてなんて、ポンが言いだしたら、タコ氏、ものすごくキレるだろうな。
「やめなよ。いいじゃん。タコ氏が何をはいていたって。トイレスリッパをはいておきたいなら、はかせておけばいいじゃん」って、私が、ポンに言ったら、
「ダメよ! 私は我慢ならない! 断じて我慢なりませんからね!」

と、ポン、えらい剣幕。
「タコ氏、きっとキレるよ」って、今度は、そう言っておどかしてみたら、
「なーに。怒らないわよ」と、ポンは言ったけど、その自信、どこから出てくるんだろう。ああ、もしかしたら、ポンは、タコ氏を怒らせるのを恐れていないのかもしれない。だとしたら、うらやましい。

 

 タコ氏がキレるといえば、タコ氏がキレたことで、一つだけ役立った(?)こともあった。
 うちの掃除機、コードレスのヤツ。3年前に買ったヤツなんだけど、ずっとすごくおかしかったのだ。全然吸い込まない。すぐに勝手に止まる。絨毯の上のホコリなんて、全く取れない。ここ最近、ますますひどくなっていたのだ。
 で、それを珍しく手に持って、自分が寝室に使っている和室を掃除したタコ氏は、
「あのさあ。文句言いたくはないけどさあ! なーんで、こんなもん買ったの!」
と、ポンに向かって、キレて怒鳴ったのだ。
「何でって。その掃除機を買った時には、あなたもいましたけど?」
 ポンが言ったら、タコ氏は沈黙した。すると、ポンは、怒りのスイッチを入れられたみたいに、タコ氏に向き直って、
「その掃除機に関しては、私もヘンだってわかっているんです! はっきり言ってね、不良品なんです! おかしいんです! 私はねえ、その掃除機で満足に掃除できたことなんて一度もない! クイックルワイパーでゴミを集めて、吸い取る時だけ、その掃除機を使ってんの! そうしないと、使えないの! だから、文句を言うなら、その掃除機を売った電気屋に、文句を言いに行ってちょうだい!」と、怒鳴り返した。
 すると、タコ氏は、文句を言う矛先を、その掃除機を売った電気屋に向けた。タコ氏は、掃除機を担いで、うちから歩いて5分の所にある電気屋に走り、早速文句を言いにいった。
 そしたら、その勢いで、ポンも電気屋に電話をかけて、日頃、その掃除機に感じていたストレスを、電気屋に洗いざらいぶちまけ、
「この掃除機、もう、3年間のうちに、3回も修理出しているんですよ! 明らかに、おかしいですよね。まともに使えたためしだってないんです! はっきり言って、それは不良品ですよ。もう納得できません。返金していただくか、新しいものと交換していただかないと!」と、怒鳴りつけた。
 そしたら、驚くじゃありませんか。その電気屋さん、一晩悩んで、掃除機のメーカーと相談したりした挙句、何と! 全額、返金してくれるといったのだ!
 まあ、電気屋さんや、掃除機メーカーさんが、良心的だったんですねえ。驚きました。こんなこともあるんですねえ。
 タコ氏のキレからはじまった事で、良いような結果に終わった事件は、まあ、これ一件だけだけど。
 しかし、こんなことも、たまーにあるのだ。たまーにはね。

 

私だって意見を言います。

この頃、大人しくしていて、特に記録するほどのことはなかったのに、何ですか。やっぱり、キレました。キレずにはいられないのかね。新聞に向かってキレました。わが家は、朝日新聞を取ってるんですけれど、それをめくりながら、
「毎年、夏になると腹が立つんだけどさ!」
 そう言って、私とポンとにらんで反応を待つ。私達、別に知りたくはないけど、明らかに、反応を待っている顔つきなので、
「何?」って、しょうがないから聞いてみる。
「この新聞! 高校野球に、ページ割きすぎなんだよね! これだけページ割いてさ、いくら分だと思ってんの! 400円相当だよ、これ!」などと怒鳴った。
 ここで黙っているか、
「まあ、ページ割きすぎですねえ」って言えば、相手も大人しくなったかもしれないが、私、この頃、タコ氏の言うことに、ヘエヘエいうの、イヤになってきたし、いくらキレても、かまうことかって思うし、大体、怒鳴られるのにもいい加減慣れてきたから、ヘエヘエ言うのをやめにして
「いいじゃん。高校野球の記事載せたって」って、ハッキリと自分の意見を言ってやった。そしたら、ポンが、
「そうよ!」って、ここぞとばかり、私の意見にかぶせてくる。
 そしたら、タコ氏は、もちろん、ますますキレて、
「何がいいんだよ! 高校野球の記事に、何の価値があんの! 何の意味があんの! あんた達だって、高校野球なんかに、全然興味ないくせに!」と、激しく怒鳴った。
 まあ、そりゃあ、高校野球のこと、何も知りませんよ。だけどねえ、それでもねえ、新聞に高校野球の記事が載ってると、いいもんなんですよ。高校生達が頑張ってるなって、その雰囲気を感じるだけで、私は嬉しいんですよ。暗いニュースばっかり続くよりも、やっぱり、高校野球の記事が新聞に載っていると、青空と野球ボールと、高校生達の汗とそれを応援する吹奏楽部の楽器と、太陽の照り返しなんかがパーッと浮かんできて、それがページの間から吹いてくると、その瞬間だけでも、爽やかな気分になるんですよ。そりゃ、私、野球のくわしいことは読みませんさ。だって、ものすごく野球が好きってわけじゃありませんからね。だけど、それでも、新聞に高校野球のページがあっていいって思うし、そういう意見を言ったっていいじゃありませんか!
 だけど、タコ氏は、すっかりキレモードで、

「じゃ、去年の優勝校は!? おととしの優勝校は!? その前の優勝校は!?」
と、はげしく迫り寄ってくる。

「そんなの知らないよ。だけど、高校野球の記事、全然いいじゃん」

って私が言ったら、

「何で、高校サッカーじゃいけないの! 何で高校水球じゃいけないの!」

と、タコ氏は声を裏返し、

「とにかく、よーく考えた方がいいよ。高校野球の記事に、年間5万円だってことが、ペイするのかどうか!!!!」
 そう言って、和室に飛び込んで、バタン!! と、扉を閉めた。
 ヤレヤレ。自分の望む答えを言わないと、怒ってキレまくるってさ。それって、人の意見が聞けないってことじゃないですか。だけど、この間は、「表現の不自由展」が中止になったという記事を読んで、
「日本も終わりだよね。表現を規制するようじゃさ。やっぱ、いろんな価値観を認めないと」といったのは、自分ではありませんか!
 だったら、いろんな価値観や、意見を認めなさいよ、あんただって! 
 そりゃ、新聞代をはらってもらってるアラサーの小説家かもしれませんがね、それだって、タコ氏とは違う意見を持って、それを言う権利だってあるんですよ。人が自分の意見に同意しないからって、いちいち、怒鳴るなっつーの。